4.4 政策の意思決定システム

 環境配慮型交通手段の利用促進は、既述の政策が実現すれば達成され得ると考えられるが、政策そのものがいかに実現可能な形で決定され得るかは不確実である。たとえば、「交通機関の選択に限らず、環境負荷の高いものに税を課し、その税収を環境負荷の低いものの利用・普及促進にあてる目的税型の環境税が『環境に配慮した人が報われる』ための有効な手段と考えられますが、導入のための社会的合意が得られていないのが現状です。」(*27)といわれているように、政策の意思決定過程で障壁が存在するのが現実である。
 藤井(2001)(*28)は、「理想的な交通政策が実施されないのは、(中略)政治を含む意思決定プロセスにおいて不適切な力が働くことに理由がある」と指摘し、「できる限り地域交通政策の権限を地域に委譲する。意思決定主体は複数の地方自治体を包含するが、行政システム城郭地方自治体からの独立性を有する。民意を反映するように、住民投票制度が組み込まれ、意思決定プロセスには住民代表が参加する。意思決定主体は交通問題専門の専門家を選任のスタッフとして有する。」という意思決定システムを提案している。
 日本には、ドイツの緑の党のように環境保護を前面に出した政党がなく、環境問題に対する争点もドイツほど定着していない。それゆえに、政策意思決定プロセスにおいては、専門家が意思決定主体となるべきである。それでもなお、民意を反映する必要があることから、専門家の独断による意思決定となってはならない。このような過程で環境配慮型交通手段の利用促進政策を形成していくためには、地道に社会的合意を得ていくことが不可欠である。この社会的合意を得るためには、学校教育や広報などで、環境問題の深刻さ、各種交通手段の環境貢献度などを広く認識させることが重要である。


*27 国立環境研究所ホームページ” http://www.nies.go.jp/sympo/2001/qanda/01-moriguchi.html ”
「国立環境研究所 公開シンポジウム2001(環境の世紀の幕開け)」(2001年7月19日開催)の 第2セッション・第2講演「人と環境にやさしい新世紀の交通・物流を考える」(森口祐一)の際、アンケート用紙で私が尋ねた質問に対して、講演者が後日回答したもの。
*28 藤井彌太郎(2001)『自由化時代の交通政策 現代交通政策U』東京大学出版会,267ページ

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