4.2 公共交通活性化策の現状
日本においても、「環境負荷の少ない交通体系を形成するためには、自家用自動車に比べ環境に負荷の少ないバス・鉄道などの公共交通機関利用への転換を促進することが重要である」(*24)と、環境配慮型交通手段の重要性が認識されつつある。そして、具体的には、幹線鉄道の高速化、相互直通運転化、駅の改良、輸送力の増強、混雑の緩和、結節点強化などの対策が打ち出されている。公共交通活性化策における補助制度に関しては、補助対象が施設の整備や改修など、ハード面に偏っており、運行頻度や運賃水準といったソフト面については、事業者の自主的対応に任されているのが現状である。(*25)
佐々木公明・文世一(2000)(*26)は、「実証分析の結果によると、公共交通に対する需要は、運賃よりも速度や本数などサービスの質に対してより弾力的であることも明らかになった。したがって、運賃を割引するために補助金を使うよりも、運行頻度の増大や速度の上昇など、サービス向上のために使うほうが効果的といえる。」と説明している。したがって、現在の公共交通活性化策の方向性どおり、サービス向上を重視するべきである。それでもなお、前章で触れたように、ドイツでは、公共交通機関利用コストの思い切った値下げにより、歴然たる効果をあげたことも視野に入れるべきである。
自動車特有の利便性にもかかわらず、人々がすすんで「公共交通機関を利用しよう」と考えるようになるためには、環境に配慮した人が正当に報われる程度まで運賃水準引き下げをするべきである。そうでなければ、「自家用車を有効利用したほうが得」という状況が続き、公共交通機関へのシフトは効果的に行い得ないと考えられる。運賃引き下げのためには交通企業への助成が不可欠であるが、自動車から徴収するガソリン税の額をさらに上げることで、財源は常に確保しうる。つまり、エネルギー多消費型の自動車の利用コストと環境配慮型交通手段の利用コストを比較して、相対的に後者が安くなるように、経済的負担措置と助成措置を組み合わせることである。道路特定財源の使途見直しの議論の中で、環境対策などへの有効活用の声があがっているといわれるが、まさにエネルギー多消費型の自家用車から環境配慮型交通手段への転換のための有効活用も視野に入れるべきである。
*24 | 環境省編『環境白書(平成13年版)』297ページ |
*25 | 藤井彌太郎(2001)『自由化時代の交通政策 現代交通政策U』東京大学出版会,264ページ |
*26 | 佐々木公明・文世一(2000)『都市経済学の基礎』有斐閣アルマ,193ページ |