3.3 環境交通プログラム(*11)

 ドイツでは、企業や自治体などの組織が一体となって環境にやさしい通勤を促進する「環境交通プログラム」運動がさかんになっている。環境交通プログラムの柱をなすのは、インフラストラクチャーづくり、財政的な動機づけ、そしてイメージである。
 まず、公共交通機関や自転車を利用しやすくするための、さまざまなインフラストラクチャーづくりに関して、以下の事柄が挙げられている。(*12)

1. 鉄道、バス、市電すべてを組み合わせた総合時刻表づくり。これなら時刻ごとに適切な通勤手段が一目でわかる。
2. パーク・アンド・ライドやトレイン・アンド・バイク(電車と自転車の組み合わせ)のできるルートを細かく説明したビラの配布。
3. 職場までの自転車専用マップづくり
4. 同僚どうしの車の相乗り。ある会社では「フレックス・ドライブ」と銘うって、自宅の近い同僚が一緒に1台の自動車で通勤できるシステムを、コンピュータで作成した。同一地区にある複数の企業が合同して同様のシステムをつくった例もある。
5. 職場に近いところに駅や停留所をつくらせる。これは例外的な事例だろうが、実際にある。このようなことが実現するには、それまでに通勤者がどれほど環境に配慮した通勤努力をしているかという実績がものをいう。

 次に、財政的な動機づけとして、以下の事柄が挙げられている。(*13)

1. 会社チケット。多くの企業が採用しているシステムである。企業がまとめて定期券を購入し、従業員に安く供給する。これに対応して、たとえばシュトゥットガルト公共交通組合はまとめ買いの数が多くなるほど、値下げ率を大幅にする制度を設けて、2年間に85パーセントも定期の購買数を増加させた。社員は定期を安く購入でき、駅まで買いに出かける必要もない。交通企業の側にとっても、大口の購入者を確保でき、定期購買にかかる費用を節約できるという利点がある。
2. 自動車通勤者からは職場の駐車場料金をとり、公共交通機関の利用者や自転車・徒歩通勤者に補助金を出す。パーク・アンド・ライドや相乗り通勤をする人にも若干の補助金を出す会社もある。ユニークな例としては、社内で公共交通機関を利用する従業員が増えるのに応じて、こうした従業員への無料支給の回数を増やす「雪だるま」方式がある。すでに電車・バス通勤をしている従業員に他の従業員を説得させるのがねらいである。

 自動車ではなく、環境に配慮した通勤手段こそ「格好がいい」のだ、という風潮は少しずつではあるが、高まってきている。エコ通勤のイメージを高めるための広報活動、社員の関心を高める工夫は、かなりの成果をあげている。ある会社では環境交通プログラム実施以来、エコ通勤者の割合が15パーセントから60パーセントに上昇した。車通勤をしていた900人の従業員のうち、100人が公共交通機関利用にかえた会社もある。


*11 今泉みね子(1997)『ドイツを変えた10人のパイオニア』白水社,83−86ページを要約
*12 今泉みね子(1997)『ドイツを変えた10人のパイオニア』白水社,84−85ページよりまとめた
*13 今泉みね子(1997)『ドイツを変えた10人のパイオニア』白水社,85ページよりまとめた

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