3.2 公共交通機関の促進対策

 今尾(2001) (*7)によると、ドイツでは「50以上の都市で合計1500キロを超える路面電車が都市交通の中心的な役割を担って活躍している。(中略)ドイツ全体としては、従来の路面電車を活用し、地下化や専用軌道の建設、高性能車両の導入によるスピードアップ、停留場の改良などさまざまな近代化を行って競争力のある都市交通として成長させていったのである。」

 カールスルーエ市では、路面電車が鉄道に乗り入れている。電気機関車用の電動機も備えた新しい路面電車は、市街地の中は細かく停車しながら路面電車の軌道を走り、市の端までくるとそのままドイツ鉄道のローカル線の軌道に乗り入れ、近郊の市まで走る。乗り入れ区間では、従来のドイツ鉄道では不便だった集落などにこまめに駅が新設され、駅によってはパーク・アンド・ライドの駐車場がホームに隣接した場所に設けられている。これによって、周辺の市や村の住民がカールスルーエに訪れるのが非常に便利になった。実施以来、路面電車の乗客は5倍に増えた。乗客の40%がかつては自動車を利用していたという調査結果(図3-2-1)より、自動車からのシフトがうまくいった例であるといえる。
カールスルーエ駅から出る他の鉄道路線にもこの「二重システム路面電車」の車体は利用され、ローカル線の本数が増えた。カールスルーエ市にならって、ザールブリュッケン市も近郊地域と結ぶ同様の電車導入を計画している。このほか、カールスルーエでは、自動車から公共交通機関へのシフトを促すための「環境チケット」が発売されている。今尾(2001) (*8)によると、「それまで1ヶ月52マルクだった市電の定期よりも安い月額43マルクで、さらに年額なら430マルクと大幅な割引を行った。(中略)こうしたあらゆる方面での努力の結果、多くの自動車利用者を電車(バスも含めた公共交通)に取り込むことができたのである。」

 ラーヴェンスブルク、フリードリヒスハーフェンなどの市では、ドイツ鉄道のローカル線の本数が少ないが、これらの市は共同で鉄道会社をつくり、ドイツ鉄道の線路に独自の電車を走らせている。電車はドイツ鉄道の電車がまったく止まらない小さな駅にもとまる。駅も、自治体が財政を負担して改修した。
 フライブルク市は戦前からあった路面電車を撤廃せず、逆に90年代に入ってさらに拡張している。現在でも市民の約62パーセント以上の住宅地が停留所から600メートル以内に含まれる。拡張が完成すればこの数字は83パーセント以上に昇る。バスも電車と共通の切符で利用できる。
 公共交通機関の利用促進には、利用したくなるような料金体系も重要な役割をはたす。フライブルク市は、1991年、ドイツでは最初の地域環境定期券(通称レギオカード)のシステムを導入した。これは当市と近隣の2郡内の鉄道、路面電車、バス合計90路線、述べ2710キロメートルに共通して使える定期券である。無記名式のレギオカードは1ヵ月64マルクで、この券の通用最大区間を鉄道の普通乗車券で往復するよりも安い。日曜・祭日にはこの券一枚でおとな2人と子ども4人までが電車やバスに乗り放題なので、週末の行楽を自家用車から公共交通機関に変えさせるのに最適のシステムである。導入後、市内の公共交通利用は順調に伸びており、1年後には7.5パーセント増加、10年前と比べると2倍以上の伸びを見せている。現在では他の多くの市でもレギオカードに似た定期券が実施されている。フライブルク市では自家用車の利用率が76年には60パーセントであったのが、94年には46パーセントに減少し、公共交通機関と自転車の利用率は上昇した。
 「日本以上に圧倒的な自動車王国であるドイツでLRTの整備をするには、やはり苦労があった。そのため、非常に細かいレベルでパーク&ライドの整備を進め、家族4人で電車に乗ると大幅に割安になる切符を発売するなど、自動車の大きな利便性を認めながらも、都心部と郊外で電車と自動車を『棲み分け』させる方向に誘導しているのである。」(*9) 「一方では自動車利用者からガソリン税を徴収し、その中から大きな割合を鉄道の整備に充てる強制的な方法もとり、また路面電車―LRTの整備に圧倒的な補助を出せるように『地方交通助成法』を改正し、現在では建設費の80パーセント以上を連邦や州政府が支出している。」(*10)


*7 今尾恵介(2001)『路面電車――未来型都市交通への提言』ちくま新書,194ページ
*8 今尾恵介(2001)『路面電車――未来型都市交通への提言』ちくま新書,149ページ
*9 今尾恵介(2001)『路面電車――未来型都市交通への提言』ちくま新書,216ページ
*10 今尾恵介(2001)『路面電車――未来型都市交通への提言』ちくま新書,217ページ

前へ   次へ