「お客様」を蔑ろにした下手な「ビジネス」


 9月18日(土)・19日(日)と、日本プロ野球史上初のストライキが決行される事態となった。「ストによる直接的な経済損失」として、チケット収入や飲食・グッズの売上など、約30億円の損失が試算されているようである。では、もし試合が行われていたならば本来入ってきたであろう「約30億円」は、どこから来るものなのか。チケット、飲食、グッズにお金を落とすのは、言うまでもなく「お客様(=ファン)」である。今回のストライキは、日本プロ野球選手会の意思だけではなく、「お客様(=ファン)」の意思も含まれているのである。「このままだと、野球観戦などにお金を出さなくなってしまいますよ」という「お客様(=ファン)」の意思。その総意が「約30億円」。

 「損害賠償請求」を起こそうという無神経なことを話している一部のオーナー達。法的判断から「損害賠償請求」ができるのかどうか以前の問題として、「お客様(=ファン)」の存在をどこまで無視し続けるのか。日本のプロ野球をオーナー達のいいなりで勝手に縮小させることによって、野球ファンの楽しみを減退させ、将来的に「お客様(=ファン)」が野球観戦に出かけなくなってしまうと、どれだけ大きな「損失」になるのだろうか。そんな長期的視点すら考えることもできずに、2日間の「損害」ばかりを見ているオーナー達。悲しい現状ではあるが、“「お客様」を蔑ろにした下手な「ビジネス」”が、日本のプロ野球界で繰り広げられている。

 決して「好景気」とはいえない今の日本。新規に顧客を開拓できるのか、従来の固定客を奪われてしまうのか・・・と、「お客様」を如何に大事にできるかが、どの企業においても死活問題なのである。なぜならば、ごく当たり前の話だが、個々の企業の利益は「お客様」からの収入によって成り立っているからである。顧客満足度を高める為に、事業内容に関して自ら創意工夫を重ねていくのはもちろん、お客様から頂く声(時にはお叱り)に耳を傾けながら、さらなる発展の為に活かしていく。これができる企業とできない企業とで、「ビジネス」がうまくいくかどうかが分かれてくるのである。

 今の日本のプロ野球では、「お客様(=ファン)」の声に耳を傾けるといったことすらできていない。シーズン真っ只中に、オリックスと近鉄の球団合併の話が出てきたかと思いきや、「もう一組の合併」や1リーグ化と話が唐突に出てくる。「お客様(=ファン)」の意見が届かぬままの動きだった。球団数維持策の(合併凍結に代わる)代替案である新規参入に関しても、「審査を公正にするために時間がかかる」として、2005年からの参入を確約しなかった。もちろん、一定の時間はかけるべきである。それならば、オリックスと近鉄の球団合併による選手たちの受け入れ先などの議論も時間がかかる。仮に「もう一組の合併」や1リーグ化が信じられない勢いで強行されていたならば、もっと時間のかかる調整が必要だったはずであろう(もっとも、オーナー達の間で、以前から青写真ができあがっていたとの憶測もできる。それならそれで、今後のプロ野球の行方にとって重大な事項が、「お客様(=ファン)」の見えない所で進んでいたことになる)。それだけ手間と時間のかかる大規模な球界再編を手がけようとしていた時期があった一方で、新球団の参入に関しては「来季」をなぜ確約できないのか。その辺りの事情説明が、「お客様(=ファン)」には伝わってきていない。

 ここまで「お客様(=ファン)」が蔑ろにされている中、辛うじて橋渡しの役目を果たしてくれているのが、古田を筆頭とする日本プロ野球選手会である。日本のプロ野球が、オーナー達のいいなりで勝手に縮小させてしまうのに歯止めをかけるべく、誠実な交渉に望んでくれている。「本当ならば野球をプレーしたかった」という選手たち、「本当ならば野球観戦をしたかった」というファンも多数いる中での、止むを得ないストライキ決行。直接的には、選手会の声を受け入れない日本プロ野球組織への対抗策なのだが、実は「お客様(=ファン)」の声をも代弁してくれた形でのストライキである。

 「約30億円」といわれる「ストによる直接的な経済損失」を、「このままだと、野球観戦などにお金を出さなくなってしまいますよ」という「お客様(=ファン)」の総意と受け止めて、今後のプロ野球の発展に活かそうという姿勢が見られるのかどうか。プロ野球の経営者たちには、今回のストライキを機に、今後も“「お客様」を蔑ろにした下手な「ビジネス」”を続けてよいのかどうか、深く検討してもらいたい。

2004/9/20 掲載


sakam21